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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)5632号 判決 1961年12月18日

原告(反訴被告) 岡戸嘉門

右訴訟代理人弁護士 増田伝吉

同 大石五郎

右訴訟復代理人弁護士 馬場重記

被告(反訴原告) 大竹口稔

右訴訟代理人弁護士 多賀健次郎

被告 石川樹

主文

一、被告(反訴原告)大竹口稔は原告(反訴被告)に対し、別紙目録記載の土地および建物について東京法務局墨田出張所昭和三〇年一月二一日受附第一〇四八号所有権取得登記の抹消手続をせよ。

二、被告石川樹は原告に対し、別紙目録記載の土地および建物について、東京法務局墨田出張所昭和二九年七月二二日受附第一八四〇四号所有権取得登記および昭和二九年四月二八日受附第一〇七一九号所有権移転請求権保全仮登記の抹消手続をせよ。

三、被告(反訴原告)大竹口稔の反訴請求を棄却する。

四、訴訟費用中原告(反訴被告)と被告(反訴原告)大竹口稔との間に生じた分は本訴反訴を通じ同被告(反訴原告)の負担とし、原告と被告石川樹との間に生じた分は同被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告の被告大竹口稔に対する本訴請求および被告大竹口稔の原告に対する反訴請求について

被告大竹口稔が昭和二九年二月中旬ころ、その主張のような約束手形二通の割引を訴外影井芳雄に委任したこと、右影井がそのころ訴外青柳輝男方で右手形二通の割引を受け金額五〇万円の手形の割引代金を被告大竹口に交付したこと、被告大竹口が訴外青柳に対して金額四八二五〇〇円の手形の決済はできない旨を通知したこと、被告石川が、原告所有の本件土地建物について、その権利証、委任状および印鑑証明書を用いて、昭和二九年四月二八日抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記をなし、さらに、昭和二九年七月二二日所有権取得登記をなしたこと、および被告大竹口が昭和三〇年一月二一日所有権取得登記をなしたことは当事者間に争がない。

成立に争のない甲第一号証の一、二、第二、四号証、証人青柳輝男および同影井芳雄の各証言、ならびに原告本人(後記信用しない部分を除く)および被告本人大竹口稔の尋問の結果を総合すれば、訴外影井は、訴外青柳方で、被告大竹口から割引を委任された金額四八二五〇〇円の約束手形の割引を受けながら、その割引代金を被告大竹口に交付しなかつたこと、そこで前記のとおり、被告大竹口が青柳に対して右手形の決済はできない旨を通知したのであるが、原告は影井を青柳に紹介して右手形割引の仲介をした関係上、右手形が不渡となることに対して責任を感じ、青柳および被告大竹口と相談の上、被告大竹口において、原告所有の別紙目録記載の土地建物を担保として、他から金四八二五〇〇円の融資を受け、これをもつて右手形の決済をすることとし、原告は被告大竹口に対し、右土地建物の権利証、委任状および印鑑証明書を交付したこと、しかし、誰を債務者として誰から融資を受けるか、又、弁済期や利息をどう定めるか、および、いかなる担保の形式によるかについては特に定めなかつたこと、被告大竹口は昭和二九年三月二四日被告石川から訴外影井を債務者として金四八二五〇〇円を、弁済期同年六月三〇日、利息年一割の約定で借り受けることとし、右債務の担保として、右土地建物に抵当権を設定し、かつ、債務不履行のときは被告石川において代物弁済として右土地建物の所有権を取得すべき契約(代物弁済の予約)をなし、原告から交付を受けた権利証等を被告石川に交付し、同人から金四八二五〇〇円の交付を受けて、右金員をもつて、前記手形の決済をなしたこと、被告石川は昭和二九年七月中旬ころ、被告大竹口に対し、同月二〇日までに、影井又は原告から連絡がないときは、右土地建物の所有権を代物弁済として取得する旨を通知し、被告大竹口はその旨を原告に伝えたが、原告が何ら回答しなかつたので、被告石川は同月二一日右土地建物の所有権を取得したものとして、翌二二日その旨の登記をなしたことが認められる。

原告は、右権利証等は本件土地建物を担保に提供するために同人が被告大竹口に交付したものではなく、原告が青柳と相談の上、影井が金策するまで、青柳に預け、さらに同人が原告との申合せにより、同一の趣旨で被告大竹口に預けたものにすぎない旨を主張するけれども、右主張に副う原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右認定を覆えすにたる証拠はない。

ところで、被告大竹口は、原告から右土地および建物について抵当権設定契約および代物弁済の予約をなす権限を与えられていたと主張するけれども、右認定のように同人は原告から本件土地建物を担保に提供するために、その権利証等の交付を受けたのであるが、いかなる形式の担保とするかについては原告との間に特別の合意をしなかつたのであるから、右土地および建物について、不動産担保の通常の形式である抵当権の設定契約をなす権限はともかくとして、債権者が債務者に対する自己の優越的な地位を利用して、債務者(又は担保提供者)と特に合意した場合に用いられる担保の形式である代物弁済の予約をなす権限を与えられていたものと認めることはできない。特に、原告は何ら債務を負担したものではなく単に手形割引の仲介者としての責任上本件土地建物を担保に提供したに過ぎないこと前記設定のとおりであり、現に自己が居住中の本件土地建物を(この事実は原告本人尋問の結果によつて明らかである)、他人の債務の担保のため、債権者の一方的な意思表示によつて確定的に所有権を失うことあるべき代物弁済の予約をなすことを許したものとはとうてい考えられない。

従つて、被告石川がなした所有権移転請求権保全仮登記は、同人が無権限の被告大竹口と締結した代物弁済の予約に基いてなしたものであるから、無効の登記であり、従つて、又、右代物弁済の予約完結の結果なされた被告石川の所有権取得登記、および、これが有効であることを前提とする被告大竹口の所有権取得登記も無効の登記であるといわなければならない。

結局、本件土地建物は原告の所有に属することになるから、被告大竹口は原告に対し、無効の所有権取得登記の抹消手続をなさなければならない。

よつて、その余の争点について判断するまでもなく、原告の被告大竹口に対する本訴請求は理由があるからこれを認容すべく、被告大竹口稔の原告に対する反訴請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

二、原告の被告石川樹に対する請求について

被告石川樹は、民事訴訟法第一四〇条第三項本文によつて、原告主張の請求原因事実を自白したものとみなすべく(本件においては同項但書の適用はないものと解すべきである)、右事実によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容すべきである。

三、以上の次第であるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九三条第一項本文、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄)

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